刑務所の懲役たち(5)・・・たらい回しにされる「モタ工」受刑者

長い間、刑務所での医療、診察や治療についてお話ししてきました。

「ホントに具合が悪くても、刑務官様の許可がなければ、クスリの一つももらえない」

そんなワケで、懲役生活では「出所まで健康でいること」が何より大事なんです。


仮病のヤツ、ホントに具合悪くて死ぬ人、様々なケースがあるのですが・・・

中には「かまって欲しくて」毎日のように「熱が出た」と訴えるヤツもいました。

かと言って、診察や治療を要求するワケではない。ただ、かまって欲しいだけ。


「頭オカシイだけだろ!?」と言って、片づけてしまえばそれまでなのですが・・・

実はこの受刑者のエピソードは偶然ではなく、刑務所の根深い問題なんです。

前回の記事でご紹介した「IQ70以下の受刑者が1/4もいる」という事実。
（「刑務所の懲役たち(4)・・・「モタ工」高齢者・障害者が多すぎる」をどうぞ）


いわゆる「軽度の知的障害」の受刑者が多すぎて、刑務所も対応しきれないのです。

一般の工場で、フツーの受刑者と一緒に作業させるので、トラブルが頻発！

今回はそんな「ズレてる」受刑者のお話をご紹介したいと思います。


1．「たらい回し」にされる受刑者
刑務所の作業は「懲役」ですから、当然、好き勝手に動くことは許されません。

私語なんてもってのほか、作業に関する会話でもその都度許可を取らないとダメ。

立ち歩くのももってのほか、首を動かしただけでわき見となり、怒鳴られます。


そんな規律キビシイ刑務所ですが、ほとんど守らない受刑者もいるのです。

守らなければ連行され⇒懲罰…ですが、何度怒っても懲罰にしてもムダな人たち。

と言っても「満期上等！」のオラオラ系の怖い人ではありません。


刑務作業は単純作業ですが、すぐに飽きてしまい、勝手にしゃべりだしたり…

じっと座って作業ができず、突然歩き回ったり、突っ伏して寝てしまったり…

小学校の教室にも必ず1人くらいいましたが、アレがそのまま大人になった感じ。


「知的障害」と言えばそれまでですが、同じ工場で一緒に作業しているのです。

そんな周りと同じことができない、重度に「ズレてる」ヤツが、2～3人は必ずいます。

刑務所全体ではありませんよ、50人前後の工場内に2～3人という割合ですから！


シャバなら理解し、助け合うのでしょうが、ココは刑務所。それはオカシイ。

が、それではどーにもならないので、ズレてる彼らは特別扱いをされます。

作業は極めてカンタンなモノを与え、刑務官様もちょっとのことでは怒りません。
(詳しくは前回の記事をご覧ください)


しかし刑務官様も「受刑者に勝手なことをさせない」のが、お仕事。

効果がないとは言え、怒らないワケにはいかず、一日中怒鳴る刑務官様もいます。

メンドくさいのか、悟ったのか、ほとんど怒らない仏のような刑務官様もいます。


が、ズレてるヤツらは、怒ればふて腐れ、怒らなければ好き勝手にやり出します。

だから、９割方の刑務官様はイラつき、ガマンできず、結局は懲罰送り。

懲罰になると、その後は別の工場に飛ばされます。


しかし、ズレてる彼らには、懲罰はほとんどダメージにならない！

別の工場に飛ばされても、またマイペースでやるので、担当の刑務官様を怒らせる。

で、また懲罰送りになってしまう・・・という堂々巡り？悪循環？


トップクラスの「ズレてる」ヤツは、別の工場に行っても、１ヶ月はもちません。

図らずして刑務所のすべての工場をコンプリート！　まるでスタンプラリー

ツワモノは出所までの数年間で「工場めぐり」の２周目に入ってます。


そんなどこに行っても煙たがられ、たらい回しにされる彼ら。

最後は養護工場である「モタ工」に引き取られて、ノンビリ懲役生活を過ごすか

１割の「面倒見の良い」担当の刑務官様がいる工場に引き取られるか、なんです。


私は「面倒見の良い」刑務官様が担当の工場にいたことがあるので、わかります。

1人、2人と引き取るうちに、「ズレてる」連中がどんどん増えてしまい、困ります。

「ココはいつからモタ工になったんだ!?」と、大混乱。


作業はロクにできないので、足を引っ張り、頭数だけはいるが生産が上がらず。

刑務所の作業といっても「ノルマ」が設定されており、手抜きは一切できないんです。

彼らの面倒は見ろ、かと言ってノルマは達成しろ、ホント彼らには振り回されました。



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2．やたらと体温を測りたがる受刑者
そんな「ズレてる」受刑者は、こちらの苦労を知らず、自由に行動します。

作業に飽きてくると、勝手に立ち歩き、刑務官様に話し掛けようとするのです。

彼は「具合が悪いから、体温を測らせて」と、刑務官様に訴えます。


何度も言いますが、作業に飽きたり、勝手に立ち歩く時点で、即連行⇒懲罰ですよ！

コレをほぼ毎日、作業中にやりだすんです・・・

そんな「発熱くん」と呼ばれていた、彼の様子を聞いて下さい。


（熱：ズレてる「発熱くん」　　刑：担当の刑務官様）
熱「センセェ～センセェ～」

刑「オメェ！勝手に離席して、歩き回るんじゃねぇよ！」

熱「具合悪いんですぅ」

刑「また作業でやらかして、班長に怒られたのか？」

熱「ボクはちゃんとやってましたよぉ～」

刑「オメェ、ここは刑務所なんだ。おとなしく座っていなきゃダメだ」

熱「体温計貸してくださいよ～」

刑「わかった、わかった…熱測ったら、戻って作業するんだぞ」

熱「センセェ～、今度の特食って何～？」（特食とは祝日に出るお菓子）

刑「あぁん？関係ねぇだろ！黙って、熱測ってろ！」

熱「センセェ～、今月頼んだ本って、いつ届くのかなぁ？」

刑「だから、黙ってろ！今は作業中だ！」


これ、念のため言っておきますが、小学生と先生の会話ではありません。

30歳近い受刑者と、刑務官様の会話です。

それも、作業中。私語(交談)厳禁のハズなのに、無許可で話しています(笑)。


ちなみに刑務官様と話す時は、直立不動が大原則。敬語を使うのも当然。

一方の発熱くんは、担当台の横に腰かけ、体育座り。タメ語で一方的なトーク。
（担当台とは工場前方に刑務官様が監視するための台のこと）

まったくのヒマつぶし、そして刑務官様をナメきったマイペース。


こんなことを、ほぼ毎日、午後になって飽きてくるとやりだすのです・・・

何度でも言いますが、本来は即、懲罰。フツーの工場では許されません。

私のいた工場の刑務官様は、面倒見がよく、最後の受け皿だったので、黙認。


周りのマジメにやっている受刑者たちは不愉快ですが、あきらめてました。

この担当の刑務官様が人徳のある方だったので「しょうがねぇなぁ」です。

ホント、刑務所って想像のナナメ上を行く人たちの集まりで、驚かされます。


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タグ：モタ工 懲罰 刑務官 担当台 規律

コメント 10

おじゃまします。(*^▽^*)

「センセイ～センセイ～」には笑ってしまいました。



ホント、小学生相手にしてる感覚でしょうね。



きりたんぽさんは成人男性の中でだから、
苦笑い通り越して
あーあ、またか……。って思ったり
ウンザリなんでしょうかね(+o+)



女子少年院も軽度の知的障害の子、いました。
そんな言葉、使っていいのかわからないけどナンテ表現したら、いいのか。で、
失礼します。



やっぱり「センセイ～♪センセイ～♪」
の調子で。


年齢は15～18歳だったでしょうか…。


時々、癇癪を起こして
独房室行きでしたが。


私が最初は、わからなかったから
普通に少しだけ話をしたらば、
なつかれてしまいまして。


私を見つけると大声で
私を呼んでニッコニコ。


「ねぇー、ねぇーーッ♪」と私に向かって
満面の笑顔で走ってきたりありました笑



私は「ウルサイよっ」とは思ってても
ほとんど無視でしたが。


その子はマシンガントークで
勝手に喋ってるし。


聞いてても聞かなくても
お構いなしに喋ってるから
私は顔をそっぽ向いて、歩いてたり笑


(くっついてくる）


先生に「コラ、
ダメでしょ！」と私から、その子を
引っぺがしてくれて終わります笑



まだ十代だったし、こちらは頭が幼稚園児みたいで、声は可愛かったから
許せる範囲でしたが。



三十代男性なら、ちょっと……。ですよね笑



きりたんぽさん、中で、さぞ御苦労あったことでしょう……。



男同士だしウンザリ、それすらも超越してしまった感覚だったのでしょうか。



女子少年院は、まだ小娘だから
華やかさが、なぜだかありました笑
by 洗濯石鹸 (2016-05-28 23:21) 

洗濯石鹸さん、こんばんは
コメントをくださり、ありがとうございます。m(__)m

今回のお話、わかっていただけましたか？
似たようなご経験があるとのことで、うれしいと言いますか、笑ってしまいました。
やはり、女子の施設でもいるんですねぇ・・・

シャバであれば優しくなれるんでしょうが、刑務所ではムリです(笑)。
10代の女の子なら、それも可愛らしいでしょうが、コチラは三十路のオッサンです。
それも身長180㎝近く、体重は90kg超のデカい図体のヤツもいました。
もう、苛立ちしか湧きませんよ。
ある種の障害だとはわかっているのですが、怒りの反応してしまいます。
ワガママし放題を見せつけられると「コレでも優しくなれるのは仙人だろ」と思いましたね。

しかし「出所後はどうやって生きていくんだろ？」と他人事ながら心配になりました。
家族が養ってくれなければ、到底生きてはいけないでしょうし、一般の職場ではトラブル必至、使い物にならないでしょう。
生活保護をもらえば、恐らく「貧困ビジネス」に一発で引っかかりそうですし…
そういう意味では彼らにとって、刑務所は「安心して暮らせるところ」になっていました。（コッチは一日も早く出たいというのに…）

「刑務所は最悪の場所である」という常識と信じていたことが、そうでもない人もいることを知って、何のために生きているのか？混乱しましたね。
暗い話になってしまいました。

またコメントをお待ちしております。
稀少な経験談、とても興味深く、感謝しております。
今後ともよろしくお願いいたします。
by きりたんぽ (2016-05-29 02:01) 

きりたんぽさん

はじめまして。
少し前に、彼が罪を犯してしまい
現在、拘置所で裁判を待っています。

彼の過去や、今回のことなど
突然の事で…最初は現実と思えませんでした。
色々とこれからの事、裁判の事、彼の今後がどうなるかを調べて行く内に、きりたんぽさんのblogに出会いました。

不謹慎ですが、笑える所もあり
とても参考になるので、色々学んでいます。
本当は、こういう知識は人生の中で学ぶ事になるとは思っていませんでしたが…
彼を待つと決めたので、できる限りの事をしたいと思っています。

これから裁判になりますが、前歴があるので実刑になると思います。
それで、ご質問なのですが彼に刑務所での過ごし方などを伝えたいのですが、面会の時にそんな話をして大丈夫なのでしょうか？

例えば、刑務所での貯金はちゃんとするように…ですとか、刑務所の中での事を詳しく書いたり、愚痴を書いたりしないように…など。
前歴があるのですが、前回は支援センター？に入っていたようなので、今回は厳しい所になると思ってます。

私が彼を変えれるとは、思っていません。
只、彼自身が何か気付き変われるきっかけが少しでもあれば…との思いで彼の過去を受け入れ今回は一緒に歩んで行きたいと思っています。
良いアドバイスを頂ければ幸いです。
宜しくお願い致します。
by マンチカン (2016-05-29 13:29) 

マンチカンさん、はじめまして。
コメントをくださり、ありがとうございます。

少しはこのブログもお役に立てたでしょうか？
これから裁判とのこと、精神的にしんどいとお察しします。
過去に刑務所で過ごした経験があるならば、大してアドバイスはいらないかもしれません。入っていた本人が一番よくわかっているハズですから・・・
ちなみに、面会で「過ごし方」のような話をしても、まず問題ないと思います。

マズいのは、再犯を企むだとか、まったく反省していない内容をお互いに煽って言うだとか、そんなところです。
施設の中で何の作業をやっている？など内部事情を詳しく探るのもNGです。

マンチカンさんはとても冷静ですね。
状況を把握したうえで、彼を支える、待つというのはスゴイことだと思いますし、嫉妬しちゃいますね(笑)。

またコメントをお待ちしております。
今後ともお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
m(_ _)m
by きりたんぽ (2016-05-29 21:15) 

こんばんは。ちいです。
モタ工のスペシャリスト(笑)達、関係者の方々には、迷惑この上ないでしょうが読んでる方は、とても楽しかったです。
逆コナンくん(体は大人。知能は子供)にある意味敬意を表したいです(笑)
その図太さを分けて貰いたいです。

今日、保護司の方がいらっしゃいました。
ここを読んでいたので、事前に保護観察所から通知があってからの、保護司の訪問かと思っていたらアポもなく、いきなりの訪問でビックリしました。
これから海に行こうぜ。みたいな格好で(Tシャツにハーフパンツ、足元はビーサン)それにも、ビックリしましたが…。
そして、本当に近所の方、ウチから歩いて10分位の所にお住まいの方、中学校も同じなので、ご兄弟が同級生の可能性もアリ。
ちょっと憂鬱な気もしますが、保護司の方も決まったコトですし、出所後に向けて前向きに頑張ろうと思います。
by ちい (2016-05-29 21:52) 

ちいさん、こんばんは
コメントをくださり、ありがとうございます。m(__)m

「逆コナン君」って呼び方、いいですね！ウマい！
ゲラゲラ笑ってしまいました。
私も彼らのように「将来のことを心配せず」「目先のことだけにとらわれて」力を抜いて懲役生活を送れたら、どれだけ楽だったか？と思います。
まぁ、ムリですが。

保護司との面談、お疲れさまでした。
いきなりの訪問は、ちょっとどうかと思います。
上から目線なのか、常識がないのか、オカシイですね。
近所の方であまりにも近い関係とか、秘密が守られなさそうで不安とか、心配であれば保護観察所の担当に相談することをおススメします。
ちゃんと話を聞いてくれるハズです。
保護観察所も、家族・本人と保護司がトラブルを起こすことは避けたいようです。
ですから、ちょっと問題アリと判断すれば、割とアッサリ保護司は交代になります。
保護司で心配することより、もっと他のことで心配することはあるでしょうから、余計なことを抱え込まないためにも検討してもいいのではないでしょうか。

またコメントをお待ちしております。
いつもお読みくださり、感謝です。
by きりたんぽ (2016-05-29 22:06) 

モタ工、、、、奥が深いですね、^^;
きりたんぽさんがおっしゃるように、シャバに出てからどうするのか心配になるやら、どうやってこの先暮らすのやら興味深く思います。さすがに刑務所様も出所後の面倒は見ないでしょうが、先が見えているようなないような、ロクな未来は断じて予見できないでしょうね。

勝手なリクエストで恐縮ですが、
「満期上等！オラオラ系の怖い人」のネタをお願い致します。

現役ヤクザだろうと自称愚連隊だろうとジャバでの活躍は様々あれどムショでの立ち居振る舞いについても明確な立ち位置を持っている方々とはどのような人物なのでしょうか？

単に暴走族気質のまま大人になってしまった痛い御仁なのか、現状不満が根底で反骨精神満々のいかなる不合理も許せない強固な気質の持ち主なのか興味津々です。
よろしくお願い致します。

by マーチン・ターシロ・マサシ (2016-05-29 22:59) 

マーチンさん、こんばんは
コメントをくださり、ありがとうございます。m(_ _)m

刑務所に受刑者としている時は、コチラもいっぱいいっぱいなので、モタ工を心配したり、優しくする余裕などなかったのが正直なところです。

リクエストありがとうございます。
ネタとしてオモシロいので「オラオラ系の怖い人」は書きたいところですが、中途ハンパな話ばかりなんですよ。
懲罰シリーズで「イカレた人々」を何人か書きましたが、こういう突き抜けた人はいても、オラオラ系の人自体それほどいないんですよ。
A級(初犯)刑務所だからでしょうが、ホントにいまひとつでして・・・

「オラオラ系の怖い人」だとしても、ほぼ99％「仮釈放をもらって1日でも早く出所したい」スタンスなんです。
「満期上等！」って人は、怖い人ではなく、超短期刑やイカレた人なんですよ。
つまり「怖く」て、「満期上等」を両立しているような、マンガチックな「漢」なんて、初犯刑務所では見ませんでした。
むしろオラオラ系の怖い人ほど、担当の刑務官様にゴマするのがウマく、ウラでセコイことをやっては見逃してもらうというパターンが多かったですね。
本当に強い人、怖い人、というのは見かけではないのだろうと感じた次第です。

ブログに書けそうなオモシロいエピソードを思い出したら書くつもりですが、この辺に関してはあまり期待しないでください。盛って書いたり、ホラを吹くつもりはありません(笑)。申し訳ございません。

またコメントをお待ちしております。
いつもお読みくださり、感謝です。
by きりたんぽ (2016-05-29 23:50) 

コメントに載せてもらう必要はありません。

これを見た感想をよろしくお願いします。


たかっ！

http://www.nishinippon.co.jp/feature/sin_rehabili/article/16548
>刑事事件の捜査・裁判には１人当たり２千万円、刑務所生活は１人当たり年間３００万円の税金がかかるという。福祉施設で受け入れるよりコストは高い。

by あ (2016-06-17 14:21) 

色々なところで何度も記事にされている話ですね。
ムズカシイ問題だと思いますが、こちらのブログでも、懲役たちがどれくらいの作業報奨金(賃金）で、どれくらいの費用が掛かって・・・と再三話題に取り上げました。
高齢受刑者やゼロ銭受刑者についても記事でお話ししました。
そちらをお読みくだされば幸いです。
by きりたんぽ (2016-06-17 23:02)