刑務所と懲罰(16)・・・懲罰喰らうために、ひっそり「脱走」する

刑務所には、わざわざ自分から懲罰にアガろうという、オカシな人がいます。

もちろん下心があって、ほとんどが「他の工場に逃げ出したい」というワガママ。

イジメられた、作業に飽きた、ガマンができない…理由もロクでもない。


しかし、他の工場に移るにはマトモな方法はなく、懲罰を喰らうのが唯一の方法。

だから、ロクなことがなく、ヒドイ目にあう懲罰に自分から喰らおうとします。

ただ「確実に懲罰を喰らう」のは、意外とムズカシイ・・・


やり過ぎれば「事件送致」で増し刑というトンデモナイことになるし、

あまりにショボイと、刑務官様に説教され、その後は飼い殺し、かえって地獄。

担当の刑務官様のメンツと機嫌をうかがい、ウマくやらかすのはワザが必要です。


そこでおバカな懲役は考えました。

「軽い懲罰で済んで、かつ確実に懲罰を喰らうには、どーしたらいいんだ？」

「そうだ！他の刑務官様たちにもバッチリ目撃されればいいんだ！」


さすが刑務所にブチ込まれる人間です。悪知恵は人一倍働くんです。

担当の刑務官の前ではなく、他の刑務官様の前で、反則行為をすればいい！

とくに何人もの刑務官様に目撃されれば「懲罰にせざるを得ない」


そこで前々回から、自分一人だけ懲罰にアガるワザ「自殺のテク」をお話ししています。

「自殺のテク」には、代表的な３つがあります。

①自爆スイッチ ②ビックリ箱で立てこもり ③ひっそりとダッシュ


今回はその最終回、③ひっそりとダッシュについて、お話しします。

①自爆スイッチ、②ビックリ箱 の「自殺のテク」については
「刑務所と懲罰(14)・・・確実に懲罰を喰らう方法」
「刑務所と懲罰(15)・・・刑務所で「立てこもり」」
にて詳しくお話ししています。ぜひご覧の上、今回の記事をお読みください。


1．ひっそりとダッシュ
ひょっとしたら、地味なんですが、コレが一番シンプルかつ成功率が高いかも。

チャンスはゴロゴロしています。

工場から出て移動する時、すべてがチャンスのタイミング。


運動、入浴、出役、還房・・・廊下など外に出ている時が、狙い時です。

一番多いパターンは「運動時」

行進して運動場まで行きますが、運動場では割とフリーに動けます。


広い場所で、50人程度の大人数が動くワケですから、監視がどーしても甘くなる。

そう、「逃走するのに絶好のチャンス」

塀を乗り越え、シャバに逃げようとするのはムリですが、運動場から逃げるのは可能。


監視している刑務官様は、２人程度。

こちらを見ていないスキをねらって、ひっそりとダッシュすればOK

脱走というよりは「どさくさに紛れて、いなくなる」感じでしょうか。


シャバに逃げるワケではないので、ダッシュできれば、それでもう成功。

ダッシュできなくても、勝手に運動場から抜け出されば、合格、満点。

あとは「誰か、自分のことを捕まえて、連行して！」と不審な動きをすればOK！


だから、まぁ、数分以内にアッサリと捕まってしまいます。

ダッシュする受刑者も、脱走が目的ではないので、おとなしく捕まるんです。

しかし逃走は「重大な反則行為」ですから、ゼッタイに懲罰にはアガります。


懲罰を受けたいがために「ヤラセの脱走」する確信犯だから、ホントは悪質のハズ

が、懲罰審査会では「おとなしく捕まり、反省している」なんて認められてしまい

意外と情状酌量されるようであり、軽い懲罰で済むことが多いようなんです(笑)。


まぁ、軽めの懲罰にとどめたい受刑者にとっては都合が良い！

でも刑務所を大騒ぎにする「脱走」をしているから、ゼッタイに懲罰にはなる！

こりゃあ、矛盾した条件を満たす「必殺ワザ」になるワケです。


しかし、担当の刑務官様にとっては「メンツ丸つぶれ」

最高に不機嫌にさせる「必殺ワザ」でもあります。

他の刑務官様はモロに見ているわ、逃走したと大騒ぎになるわ・・・


担当の刑務官様にとっては、同僚・部下の前で失態、大ハジをかかされ、

上司からは、その管理能力を疑われ、叱責され

受刑者だけがトクをして、担当の刑務官様が損をする、オカシなことになります。


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2．脱走のせいで思わぬとばっちり
そんなワケで、ひっそりと脱走して、まんまと懲罰にアガり、大成功！

本人は計画通り「懲罰喰らって、他の工場に移る」ことができて大満足でしょう。

しかし、意外にも「後遺症」はあり、残された者には大迷惑でした。


さすがに「ひっそりとダッシュ」が続けば、刑務所側も放っておきません。

こんなことが外部に知られたら、メンツ丸つぶれ、大問題になります。

そもそも刑務官様は「懲役たちが思い通りになる」ことが大キライ(笑)。


ある日、運動時間中に「ひっそりとダッシュ」事件がまた起こりました。

「オメェら！全員並べっ！早くしろっコラっ！」

まったりと運動場で歩いていたら、突然担当の刑務官様が怒鳴り散らし、集合です。


全員整列をさせられ、点呼で「人員確認」

「イチッ、ニィ、サンッ・・・・・・」

「もう一度だぁ！・・・チッ、やっぱり一人足りねぇじゃねぇかっ！」


どの時点で脱走に気づいたかはわかりませんが、やはり一人いないんです。脱走！

「オメェら、その場を動くなッ！静かに待機！」　おや、おエライさんまで登場。

「統括」と呼ばれる課長クラスのおエライ刑務官様までが現れ、大騒ぎです！


この時は、イジメにガマンできなくなったDくんが「ひっそりダッシュ」でした。

Dくんは懲罰でアガれて、エゲツないイジメから脱出でき、喜んでいるでしょう。

しかし、残された者たちはエライ迷惑をこうむったんです！


まず、脱走した本人がいないのに、「統括」から長々と説教され、ウンザリ。

さっそく運動場の周りには「金網フェンス」が設置されることに。

運動場の出入り口もカギ付きのゲートが設置され、物々しい雰囲気に。


当然、監視の目はキビシクなり、運動場でのクソな行動制限がいくつも登場。

「ココに近寄ってはいけない、ココは走ってはいけない」とイチイチうるさい。

それほど広くもない運動場を、さらにこじんまりと使え、というクソなルールに！


そして懲役たちの間で、真剣に議論になったのが「メシへの影響」。

「金網フェンス」「カギ付きゲート」それなりにおカネがかかっただろう。

こんな「想定外」のモノに予算を使ってしまい、シワ寄せが来るに違いない。


「予算の総額は決まっているハズ。フェンスのおカネをどこで穴埋めするんだ？」

「削るとしたら、やっぱり懲役たちの食費じゃないか？」

「だから最近、バナナが出なくなったんだ！」


そう、懲役たちの間ではこんなバカな話をしていたのだが、食事が変わったのだ！

あれから急に「フルーツが出る回数が減った」のを全員実感していたんです。

とくに、みんなが楽しみにしている「バナナ」がちっとも出なくなった！


おバカな受刑者の脱走⇒フェンス設置⇒まさかの出費⇒食費削減！？

んで、バナナをなくすってか？

まさか、つながりがあるとは思いたくはないが・・・


刑務所からのおしおきなのか？

「Dが脱走したせいで、バナナがなくなっちまった！」

受刑者たちは毎日退屈なので、こんなウワサをして、勝手に信じています。


この先、実は大変なのが、Dくん。

イジメを逃れるため、懲罰喰らってでも他の工場に移ったワケです。

が、しかし…悪いウワサは他の工場にも必ず伝わります。


あのウワサのせいで、Dくんはまた、イジメられることでしょう。

「Dのせいで、フェンスができて、バナナが減ったらしい」

「なにぃ！アイツ許せねぇな！責任取らせようぜ！」こんな感じで、またイジメ開始。


くだらない話ですが、毎日生活していると、バナナはロコツに感じました。

シャバに出れば、どーでもいい話ですが、当時はDくんが許せませんでしたね。

しかし、「脱走⇒食費削減」というカラクリ、私はホントの気がしてならない。


ホントに都市伝説と呼ぶにふさわしいレベルで、申し訳ないです。

次回は懲罰シリーズしめくくり「懲罰を喰らった後、ツラいこと」をご紹介します。



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タグ：懲罰 脱走 逃走 刑務官