仮釈放には何がキクのか⑧・・・男の嫉妬と職業訓練

前回は、数少ない「仮釈放が多くもらえる」有効な手段

「職業訓練」を受ける

ことについてご紹介しました。


職業訓練を受けるには、応募して、審査に合格しないといけません。

ヨソの刑務所に行くためには、かなり狭き門。


生産工場で懲役を勤める「フツーの者」にとって、

ましてや、10年以上の長期刑の者にとっては、なぜか審査がキビシク

脱走並みにムズカシイ。


そんな中、空気も読まずY刑務所の理容の職業訓練に応募して、

なぜか合格してしまったTくんのお話の続きをさせていただきます。


3．職業訓練に簡単には行かさねぇ！
Tくんは20代の気弱なクセに、文句ばっかり言っている青年。


自称、昼はエリートサラリーマン、夜はナニワのタタキ王子という

もうちょっとマトモなウソ・ハッタリをつけよ、と説教したくなる

「貧者ハッタリくん」


そして、見た目は虫も殺せぬビビりなクセに、

自称強盗罪で懲役13年の刑という

このアンバランスさが魅力なTくん。


刑が確定し、刑務所に送られ、工場で懲役を勤めるようになって約3ヶ月。

まだまだ作業も覚えられず、新入り扱いですが、Tくん動きます。

職業訓練に応募したのです。


ところが、Tくんは13年という長期刑なので、職業訓練に合格しにくい。

にもかかわらず、遠方のY刑務所、理容の職業訓練に応募したのです。


理容は2年という長期の職業訓練。

資格が即、就職につながるため人気が高く、さらに募集人員も少ないという、

なかなか通らない、難関です。


Tくんのような新入りが応募すると、懲役の先輩方のお怒りを買います。

「作業も教えてもらって、作業もまだできねーくせに、生意気なんだよ」

こう言われて、イジメられることが多いので遠慮する者が多いんですが・・・


近くにいた私も、Tくんに

「来たばっかりなんだから、あんまり目立つことはしない方が良いよ」

と諭したものの、どこ吹く風。


「こんな作業、自分はムリ！職業訓練応募して、脱出しますから」

―――いやいや、そんなにカンタンに受からないって！

「だってこんな作業、5年も10年も続けてられないっすよ。頭おかしくなるって」

―――まぁ、そりゃそうだが、他の道がないから仕方ないって。

「こんな作業、よく愛せますね？」

―――愛って(笑)。やるしかねーからやってるだけだって。


こんな世間知らず、ワガママ坊やのTくんが職業訓練に応募する・・・

周りはみんな、「受かるワケねーだろ」とバカにしていました。

ところが2か月後、職業訓練の審査に通ってしまったのです。


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周りの空気も読まず、そんな難関に、悪条件を揃えたTくんが応募する・・・

周りの懲役たちは鼻で笑っていました。


「アイツが受かるワケねーだろ！」

「工場に来て3ヶ月で応募するなんて生意気だ」

「これからガッチリやってやる」


これだから、刑務所は怖い。懲役は恐ろしい。

さらには、なんと、刑務官様まで悪口を言う始末です。

「アイツはまだまだ長ぇんだから、職業訓練なんて早ぇんだよ！」


ところが、刑務所は何が起こるかわからない！


四面楚歌なTくんでしたが、なんと2か月後刑務官様から呼ばれます。

「おめぇ、どうやらY刑務所の職業訓練の審査、通ったらしいぞ」

刑務官様は明らかに不満顔で、メンドくさがってロクに説明しません。


懲役たちは「まさか、アイツが！ヤラレタ！」

と、口ぽかーん( ﾟдﾟ)です。


大喜びのTくん、居心地の悪い今の工場を去り、職業訓練へ栄転です。

「いやぁ、すいませんねぇ。もうここには二度と帰って来ないっすから」

Y刑務所で理容の資格を取り、そのまま残って懲役を勤めるつもりです。


こりゃあ、懲役のエリートコース、出所への最短コースじゃないですか！


ダメもとでも応募してみれば通ってしまうことがある、でもなんでアイツが！

残されてオモシロくない懲役たちは嫉妬からずーっと悪口を言っています。

「男の嫉妬ほど怖いものはない」なんて言いますが、まさにそれ。


作業を一緒にしているSさんは懲役1年半。ションベン刑というヤツです。

刑期もあと半年となり、余裕です。

ただこの人、根っからのチンピラ体質で、クレームつけないと気が済まない。


Tくんが職業訓練のキップをゲットしたのが面白くありません。

さらにTくん、作業も心ここにあらずで、Sさんの足を引っ張ります。


「アイツ、職業訓練決まったからって、調子コイてるな」

―――まぁ、うっとうしいですね。あと1か月もすればいなくなりますよ。

「いや、このまま無事に職業訓練に行かせるのは気に喰わねぇ」

―――だからって、どうにもできないでしょ？

「いや、痛い目遭わせてやればいいんだって」

―――そんなこと言っても、自分まで懲罰になっちゃいますよ。

「いや、オレは残りの刑期半年。別に仮釈放がなくても構わねぇんだよ」

―――オイオイ、物騒だな。刺し違えて、Tくんの職業訓練を取り消す気だな。


「ま、やってやっから、見てなって」

Sさんはニヤニヤして、Tくんの職業訓練帳消しを約束しました。

ひいいぃぃっ！！懲役おっかねぇ。ていうかメンドくせぇ。


ある日の昼食、工場の食堂で全員そろって食事を終えた時のこと・・・

全員が席を立ち、食堂から出て行こうとしています。

出口に向かって、軽い人混みができているその時でした。


「イテッ！」　

バタンという音とともに、Tくんが床に倒れ込みました。

はぁ？何が起こったのかさっぱりわかりません。


「おめぇ、何があったんだ！コラッ！」

刑務官様が怒鳴りながら来ています。

Tくん、どうした？


ごめんなさい。長くなったので、続きは次回、明日。



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タグ：仮釈放 出所 職業訓練 懲罰