前回、仮釈放の取消を喰らい、また刑務所に逆戻りの
Nさんをご紹介しました。
せっかく早く出所しても、
最低限の「オキテ」を守らなければ、強制収容されるんです。
再犯は論外ですが、居場所もわからず保護司と連絡が取れないと
アウトなんですね。
フツーの人ならば、刑務所に逆戻りなんて、まさに悪夢。冗談じゃない！
ところが
「刑務所生活も悪くない」と考える人が、少なからずいるのも事実。
出所後カネが尽き、食うにも困った
Nさんは「刑務所に戻って来たかった」と言います。
もちろん
「刑務所なんか1分1秒も早く出たい」というのが圧倒的多数。
ましてや10年、20年の懲役を喰らった
「ロング」の受刑者は
死ぬほど出所したいんです。
そんな正反対の考え、
真逆のタイプの２人を一緒に生活させたら・・・
まぁ、仲良くやっていけるハズがありません。
当人同士で勝手にモメればいいのですが、
他人を巻き込もうとするのが「懲役流」
今回はそんな
「モメるジジイをなだめて作業をさせる」私の苦労話を聞いて下さい。
1．無期懲役でガンバれますか？
受刑者は、初犯か再犯か、刑期が長いか短いか、で行く刑務所が分かれます。
基本的に初犯のションベン刑は、本物ヤクザや懲役30年の受刑者とは一緒になりません
ところが最近の初犯刑務所では、この原則が一部崩れてしまっているのです。
懲役30年だろうが、懲役3ヶ月だろうが、同じ刑務所にブチ込むケースが多い！
同じ刑務所でも、作業をする工場は別にすればいいのに、これまた配慮ナシ。
懲役30年と懲役3ヶ月がとなり同士で作業をすることになるワケです。
別に同じ人間、ましてや同じ受刑者、表面上は問題ないハズなのですが・・・
まぁ、ほぼ100%モメます！
嫉妬や軽蔑、そして自己中な配慮のない言動で、つかみ合いのケンカにも！
刑期の短い者はイケイケなんです。
とくに１年未満の
「超ションベン刑」受刑者に、悲壮感などありません。
懲役生活も、長期の合宿のノリ。どことなく楽勝ムードが漂います。
問題なのは、
刑期が短いので、仮釈放が「ほとんどない」か「まったくない」こと。
懲役たちがおとなしくしている最大の理由は、仮釈放が欲しいからです。
その仮釈放を、彼らはハナから期待してませんから、
懲罰も恐れません。
ということは、
日頃の行いが良くない傾向なんですね(笑)・・・
刑務官様の言うことはもちろん、懲役の先輩の言うことも聞かない人が多い。
注意すれば
「満期上等だよ！」と口論、ケンカになり、
懲罰へ道連れという迷惑！
では、
長期受刑者がおとなしいかと言うと・・・
んなワケない！というのが刑務所らしい。
もちろん超ションベン刑の受刑者よりは慎重ですが・・・人によりけりですね。
仮釈放を多くもらう、つまり
早く出所するには、
無事故無違反を続けることです。
それには、ガマンしてモメごとを起こさず、
懲罰を喰らわないことがポイント。
長期受刑者だと、年単位で出所の時期が変わるので、おとなしくしていると思いきや？
懲役も20年以上になると「ガマンがきかない」人が出てくるのです。
5年や10年なら、まだガンバれそうですが、
20年以上だと長すぎて、イメージできない。
今まで何年も無事故無違反でガンバってきたのに、ある日突然ブチ切れる人もいました。
それが
「無期懲役」だとしたら、ガンバれますか？
ほとんど生きて出所する見込みがないならば、心落ち着けて生活するのは難しいハズ。
そんな受刑者と、
懲役３ヶ月の「刑務所滞在希望」ジジイを一緒にしたら・・・
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2．無期懲役と懲役３ヶ月のモメごと
私が作業していた工場は
「チャンポン」なところでした。
懲役20年、30年という長期受刑者と、懲役数ヶ月の短期受刑者が一緒なんです。
そんなバラバラな集団で、私は作業の「指導補助」いわゆる班長をやっていました。
新しく来た受刑者に作業を教え、全員に仕事を割り振り、入出荷を管理する…
加えて、
バラバラなくせ者達を「モメごと起こさぬよう」まとめなければなりません。
それはもう、気をつかいまくり、メンドくさい毎日でした。
中でも気をつかったのが、
Tさん
Tさんは60代前半の
「無期懲役囚」
強盗殺人罪にて無期懲役を喰らったオッサンでした。
Tさんは恐らく、
生きて出所することはないでしょう。
どんなに早くても仮釈放は30年後。
その時は90歳超え。
仮釈放があったとしても年齢的にムリ。
事実上の終身刑で、仮釈放の可能性はほぼゼロ。
口には出さないものの
「この人は獄死するんだ」とわかっているワケです。
ですから、出所やシャバの話をしないよう、かなり気をつかっていました。
Tさんは人生をあきらめたのか、卑屈になっており、
何かにつけて文句を言うのです。
「わかっちゃいるけれど、もう一度シャバに出たい。でもオレにはムリ」
そんな心の叫びが聞こえてきそうな
「ふて腐れ」に手を焼きました。
一方の
Nさんは、56歳の
懲役3ヶ月。
それも
仮釈放取り消しで出戻りの「お気楽懲役」
衣食住に困らない
刑務所に一日でも長く居たいという・・・
Nさんは
「生活ができず追い込まれて、また刑務所に戻ってきた」正反対のタイプ。
刑務所の方が居心地がよく、毎日がゴキゲンの様子。
だからなのか、
無期懲役のTさんの前で、平気に無神経なことを言うのです。
「いやぁ来月には、もう出所ですよ」
「刑務所の方がラクですよぉ。職、寝床、メシの心配いらないですから」
「あぁ、シャバに出たくないなぁ」
休憩時間に、こんな軽口をたたき、周りをうらやましがらせます。
ただし、うらやましがるのは懲役３年以下の短期刑の人の場合。
懲役５年以上の長い人にとって、こんな話は不愉快でしかありません。
とくに
Tさんの怒りはハンパなかったです。
「Nのヤツ、ガラ受けに追い出されて、仮釈放取り消しのクセに生意気だ！」
「あの年齢でゼロセン(0銭=カネなし)なんて、クズだな」
初めのうちは、悪口で済んでいたのですが、
次第に私にまで矛先が向かってきて…
「班長！Nのヤツをなんとかしてくださいよ。作業のジャマだわ」
「班長！Nのヤツ、生意気な口ききやがって！作業をアオっていいですか？」
まぁまぁ、とお茶を濁していたら、TさんはNさんに
直接、攻撃するようになり…
「オイ、N！チンタラやってんじゃねぇよ。やる気ねぇなら出て行けよ！」
「オイ、N！まだ作業覚えられねぇのか？すぐシャバだからって、ナメんな！」
ロコツに言うたびに険悪な雰囲気になり、
そのたびに私は仲裁するハメに…
もしケンカになると、
仲裁した者まで懲罰になるのが刑務所。カンベンして。
こんな極端なジジイ同士のモメごとに巻き込まれてはタマラナイ。
かと言って、班長として何もしないワケにはいかず、
極端なジジイの説得です。
すぐにシャバの
Nさんには、深入りせず、冷たくビシッと命令。
「ちゃんとやらねぇなら、オヤジ(刑務官様)
に言って、工場出て行ってもらうわ」
対する
Tさんには、最大限の配慮でいたわり、なだめます。
私
「ウチの班の売上げは、Tさんのおかげですから（さすが無期懲役、熟練の技！）」
T
「アイツはいいよ。すぐにシャバだろ？楽勝だよな…」
私
「懲役3ヶ月じゃ、作業を覚える気ないんですよ（Tさん無期懲役だしなぁ）」
T
「次、カチンときたらNをブン殴っていいでしょ？」
私
「いやぁ、一緒に懲罰アガっちゃいますよ、もったいない！(巻き込まんでくれ！)」
T
「わかってるけどさ。でも、オレなんかどうせ仮釈ないしな」
私
「・・・（それを言われたら、何も言えねぇ）」
無期懲役も自業自得。私がTさんの肩を持つ理由など何一つない。
しかし、Tさんは卑屈ながらも、作業はマジメにやってくれるんです。
だから、どうしても感情的に、NさんではなくTさんに優しくしたくなるんです。
長年の懲役のカンで、
Nさんは「すっとぼけ」しているとしか思えない。
それは
「できない」ではなく「できないフリ」をして手を抜いているということ。
ホント、
受刑者の「年の功」というのはタチが悪い。ダマされちゃいけない。
無期懲役と懲役３ヶ月、
絶望と楽勝の正反対の２人。
こんな極端すぎる懲役どうしを
一緒にするな！
まとめて、仲良く作業させろって、
そんなのムリ！
次回は、もう１回Tさんのお話。無期懲役の見栄っ張りをご紹介します。
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2016-06-03 17:00
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共通テーマ：日記・雑感
無期とションベンの板挟み、大変でしたね、。
桝添都知事なみの御苦労があったと思います。
なにげに刑務所様が天国と地獄を共存させる処置を施したのかは分かりませんが、誰が考えても揉め事必至の状況です。
シャバの善良なる市民感覚で申せば、無期懲役様のような凶悪犯にはムショに入ってからも更なる嫌がらせ等の厳罰を科しているのかとの見方も出来ますが、現場を指揮する刑務官様にとっては環境破壊ともなる境遇、それは考えにくいと思います。初犯刑務所でのロングとションベンの共存、犯罪者過多が原因なれどどうしてこのような状況があるのか疑問です。
by マーチン・ターシロ・マサシ (2016-06-03 21:37)
このブログ記事を拝見するようになっていつも思うのは
この情報を如何に活用するか・・・です(^^)
実感するために務所に入るのもなんだし。
でも一般人の知り得ない面白情報満載ですね。
by 坂の上の蜘蛛 (2016-06-04 10:33)
こんばんは。今回は『混ぜるな！危険?』のお話ですね(笑)
無期懲役とションベン刑じゃ、水と油どころか、ガソリンと静電気ってカンジですね。
混ぜると、とんでも無い事になって周りは、大迷惑…。
無期の人が、僻んで卑屈になるのは理解しますが、自業自得ですしジタバタしても、どうにもならないですよね。
弟の居る所も、色々、混ざってるんだと思うと心配にはなりますね。
混ざってバカな事に巻き込まれず過ごして欲しいものです。
by ちい (2016-06-04 23:27)
ションベン刑でも国家資格持ってるとかの場合はぶちこまれただけでも登録が出来ない為相当な損害になるからまた違うと思うんですがどうですかね？
by クライヴ (2016-06-05 13:44)
マーチンさん、こんにちは
コメントをくださり、ありがとうございます。m(_ _)m
ロングとションベン刑の受刑者を一緒にすれば、モメごとが増えるのは当然です。
本来分けるハズなのに、施設によってはチャンポンにしてしまうのが理解できません。
まぁ、官の都合で「運営・運用」はいかようにも変わることのわかりやすい例でもあります。
身近にいた無期懲役囚は、おとなしい人が多くて、とても凶悪犯のようには思えない点が強く印象に残っています。
またコメントをお待ちしております。
いつもお読みくださり、感謝です。
by きりたんぽ (2016-06-05 13:53)
坂の上の蜘蛛さん、コメントありがとうございます。
おっしゃる通り「これから行く予定の人」に役立ててもらいたいのではなく、「コレを読んで、行くことを回避」してもらいたいです。
行ったところで人生にとって何一つ良いことはありません。
ロクなことにはならないから、犯罪行為をやめておく、という流れになればいいですね。
またコメントをお待ちしております。
毎回お読みくださり、恐縮です。今後ともお引き立てのほどよろしくお願いいたします。
by きりたんぽ (2016-06-05 14:00)
ちいさん、こんにちは(^o^)
コメントをくださり、ありがとうございます。
ガソリンと静電気ですか…相変わらずウマいですね。
懲役3ヶ月と無期懲役の2人が一緒に作業しても、軽蔑・嫉妬などの負の感情が混ざり合い、大なり小なり高確率でモメごとが起きます。
無期懲役囚もションベン刑も、その結果は自業自得であり、他人が知ったことではないんですが・・・ただモメごとをはじめ、、周りを巻き込まないで欲しいといつも思っていました。
弟さんが巻き込まれず、無事に帰って来ることを祈っております。
またコメントをお待ちしております。
いつもお読みくださり、感謝です。
by きりたんぽ (2016-06-05 14:12)
クライヴさん、こんにちは
おっしゃる通り、シャバでおカタイ仕事、資格が必要な仕事をしていた人ほど、刑務所に来てしまったことのダメージはデカいようです。
実際のところは、それぞれの元受刑者に尋ねてみたいものですが・・・
by きりたんぽ (2016-06-05 14:31)
はじめまして★わたしも栃木刑務所経験者です。現在旦那が服役してます(笑)
楽しくblog読ませて戴きますね★
by こにー (2016-06-06 08:09)
こにーさん、はじめまして
コメントをくださり、ありがとうございます。m(_ _)m
おつとめお疲れさまでした。
もし気が向いたら、経験談や感想をコメントして下さい。
場所や状況が違えども、経験者でなければわかり得ない話が聴けるのではないかと、楽しみにしております。
今後ともお引き立てのほど、よろしくお願いいたします。
by きりたんぽ (2016-06-06 19:24)