刑務所で具合が悪くなったら(6)・・・なかなか救急車では運んでもらえません

もしも「刑務所で具合が悪くなったら」という最悪の状況の話を続けています。

前回は「ホントにヤバい病気に急になったら」というお話を紹介しました。
（「刑務所で具合が悪くなったら(5)・・・刑務所で死にそうになったら？」）

夜中、突然胸が苦しくなってしまったHさんのお話の続きをさせてください。


Hさんは60歳過ぎの元々は元気なオッサン。

持病は高血圧で薬を飲んでいるくらいで、他は極めて健康。

しかし、心筋梗塞を起こして救急車で運ばれ、しばらく入院していたのです。


前回はHさんが、急に具合が悪くなり、夜中に刑務官様に助けを求めました。

しかし、メンドウなことは避けたい刑務官様は、なかなか取り合ってくれず・・・

ようやく医務の刑務官様が来る頃には、Hさんはすっかり弱っていました。


3．急病になったら死ぬ覚悟で
ホントに具合が悪い、何とかして欲しい、と必死に説明するHさん。

が、医務の刑務官様はメンドくさがり「朝まで様子を見ろ」と相手にしてくれません。

医者もおらず、できることも限られ、あくまで夜間の対応は最低限にしたいのです。


シロウトでも十分ヤバいとわかるほど、血圧は下がっているのに・・・です。

どうにか治療して欲しいHさんと、どうにか朝まで放置したい刑務官様のやり取り……

そんなことをしているうちに、Hさんの意識がもうろうとなってしまった！


あわてて血圧を測り直すと、さらに血圧は下がっており、マズいことに！

Hさんは呼びかけにも答えず、脈拍まで遅くなってきてしまいました。

これはさすがに、治療を受けさせないとヤバいと刑務官様も思ったらしく……


医務の刑務官様、あわてて上司に電話で確認を取り始めました。

「チッ！メンドくせぇなぁ！」

思わず本音が出て、つぶやいたのですが、それも仕方ない!?


意識もない状態になってしまったら、さすがに外の病院に連れて行くしかありません。

刑務所の職員が運んで行くワケにもいかず、救急車を呼ぶことになります。

しかし、刑務所に救急車を来させるのも、許可や手続きでメンドくさいらしいのです。
（刑務官様の言い訳かもしれませんがね）


さらに「受刑者」を外に連れ出すワケですから、連行のため付き添わないとダメ。

救急隊員に「あとはヨロシク」というワケにはいかないのです。

人手もいるし、あれこれとメンドウなことばかり。


重病・急病は外の「一般の病院」に連行して、検査・治療することになります。

しかしシャバの病院ですから、隔離や監視など必要で、何かあれば大問題！

そんな事情で、なかなか病院には行かせてもらえないんです。


Hさんの舎房でのやり取りは、バタバタし始めたので、周りにも聞こえてきました。

刑務所側の事情があるにせよ、ゴネられ、ずいぶんと手間取っていたようで・・・

ようやく救急車で運ばれるまで、すでに２時間は経ってしまったようでした。


オイオイ、心筋梗塞でそんなに放置されて、大丈夫なのかい？


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4．病気になるのはバチが当たった？
Hさんは、心筋梗塞の程度がそれほど重症ではなく、不幸中の幸い。

もっと重症だったら、あれほど放置されたので、死んでいたかもしれないのです。

少なくとも病院に行くまでに手遅れになり、後遺症が残ったことでしょう。


運良く、そこまでには至らず、治療を受け、また刑務所に復帰できましたが・・・

出所まであと半年だったというのに、何とツイていない！

「出所までもう少し！」と、はしゃいでいたHさんも、落ち込んでいるようでした。


「刑務所にいる間に心筋梗塞を再発したら、次は命がない・・・」

Hさんはこうつぶやいて、恐る恐る毎日を過ごしているように見えました。

運動は禁止、白髪も急に増え、やせてしまい、一気に老けてしまいました。


「生きて出られるかなぁ・・・」

「バチが当たったのかなぁ・・・」

しきりにこんなボヤキをするので、聞かされるコチラもたまりません。

刑務所で大病をすると、これだけ人を弱気にさせるか、と驚いたものです。


Hさんは、60歳のオッサンながら、元々は明るくてイケイケだったんです。

シャバでは、昼はサラリーマン、夜は仲間と窃盗団という二重生活だったらしく…

窃盗は20年来のキャリア、完全な「プロフェッショナル」です。


大物を計画的に狙い、転売ルートも確立しており、その話はすさまじい。

そのため稼ぐ額も大きく、かなり羽振りの良い生活をしていたようです。

今回は仲間の一人がヘタを打ち、そのせいで自分も捕まってしまったという。


と言っても、プロの犯行なので、その他の事件は発覚することがなかったらしい。

「20年もやっているからねぇ。バレたら大変なことになるよ、ハハハっ！」

余罪はアガることなく、懲役２年半で済んでしまいました。ツイてる！


「バレたけど、あれだけやっておいて２年半だから、安いモンだよ」

長期刑の受刑者の神経を逆なでするようなセリフですが、刑務所はそんなモン。

刑期も残すところ半年、仮釈放も近く、Hさんは余裕をかましていました。


出所後も、どうやら今までの犯行で稼いだ蓄えがあるらしく、楽勝らしい・・・

しかし、お天道様は見ていたのか？

出所まであと少しという時期に、死ぬ寸前の重病、心筋梗塞。


死の恐怖を味合わされて「コレって、バチかも？」と考えても、当然かも。

次第に意識がもうろうとした時は、さすがに「獄死」を覚悟したらしい。

力が入らず、動けず、しゃべることもできなくなったらしいのです。


しかし、周りの会話は聴こえて、覚えていたらしい。

半分死んでいても、怒りと恨みのパワーで会話を覚えているところがスゴイ！

だから、この一部始終を話してくれたわけなのですが・・・


懲「それにしても、よく一部始終を覚えていましたねぇ・・・」

H「あんまりにもひどい扱いだったから、忘れられないよ！」

懲「そんなに具合が悪くても、なかなか病院に連れて行ってくれないんですね」

H「そうなんだよ。救急車で連れ出したり、手続きがメンドくさいんだろうね」

懲「いやぁ、ホントにヤバい病気の時は完全に手遅れですね」

H「そうよ！シャバだったら助かる病気も、ここでは助からないわ」

懲「やっぱり刑務所では病気になっちゃダメですね」

H「健康が一番だよ。どうして病院連れて行かないんだ！って言ってもムダ」

懲「証拠があいまいだから、あとから責任も取らされないでしょうしね」

H「刑務所で具合悪くなったヤツが悪い、ツイてない、で終わりだよ」


みなさん、健康が第一です。

刑務所に入ってしまった以上、あきらめる覚悟は必要かもしれません。

次回は「ホントに死んでしまったら」というお話をさせてください。



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タグ：医務 急病 救急車 窃盗

コメント 7

こんばんわ。

獄死した、おじいちゃん受刑者のことを思い出しました。

その人は少しボケてはいましたが、可愛いおじいちゃんという感じで工場でも人気がありました。

一度入病して戻ってきたのですが、激ヤセしちゃっててかわいそうでした。

しばらくしてまた入病したのですが、その数ヶ月後に病棟で亡くなりました。

中央計算の移動簿で見た「死亡」の表記。切なかったです。

後日、担当から聞いた話では、夜中に血を吐いて外の病院に緊急搬送されたのですが、そのまま亡くなったそうです。

世間の人は、獄死なんて自業自得だと言うでしょう。

でも、同じ境遇にいた自分としては、それだけでは片付けられない、何とも言えない悲しい気持ちでした。

万引きを繰り返して入ってきたおじいちゃん。

誰にも看取られず、病棟で一人で苦しみながら死んでいったおじいちゃん。合掌。

by 1852番 (2016-03-11 22:42) 

1852番さん、こんばんは(^^)/

コメントをくださり、ありがとうございます。m(__)m
やはり、懲役仲間で亡くなった人がいるんですね。

1852番さんのおっしゃる通りだと思います。
切なくて、泣きそうになりましたよ。
自業自得とは言え、何も獄死しなくても・・・
でもその齢で、手持ちのカネもなく出所しても、それはそれでツラそうだし・・・
何のために生まれてきたのか、どうしてこうも差がつくのか、考えさせられます。

リアルで、刑務所の事情がよくわかるお話をしてくださり、感謝です。
また何か思い出したら、お聞かせください。
いつもありがとうございます。
by きりたんぽ (2016-03-11 23:02) 

血圧はどんどん上がってしまいます、これでは。
高齢者が増えているのに…

by 夏炉冬扇 (2016-03-12 09:20) 

きりたんぽさん、こんにちは(^^)

苦しんでる懲役に、『チッ！メンドくせぇなぁ！』って刑務官、人間性疑います(｀Δ´)
心筋梗塞で２時間放置って、もう少し迅速に対応してほしいです！刑務官次第で見殺しもできちゃいそうですね？恐ろしい(T-T)
by まろん (2016-03-12 11:56) 

まろんさん、こんばんは(^^)/

コメントをくださり、ありがとうございます。
Hさんが苦しんでいるのに「チッ！メンドくせぇなぁ！」と言い放ったこのひどいセリフ、何人かがしっかり聞いていたのです。ビックリしました。
声に出して言うなよ、って。

おっしゃる通り、刑務官様に嫌われてしまうと、具合が悪くなっても診察や治療をなかなか認めてもらえません。
「そうなりたくなければ、言う通りに、おとなしくしてろや」と態度で示してくれているんでしょうね。
新聞をよく見ていますと、年に１～２人は「対応の遅れ・放置プレイ」が原因と思われる獄死がありますもんね。
ホント、無事に出所できるよう、毎晩祈ってました(笑)

またコメントをお待ちしています。
いつもお読みくださり、感謝です。
by きりたんぽ (2016-03-13 00:45) 

天網恢恢疎にして漏らさずという言葉は当たっているのかもしれませんね
by クライヴ (2016-03-20 06:17) 

クライヴさん、ホントにそうなのかもしれないと思いました。
この場面だけを切り取ればひどい扱いを受けていますが…
by きりたんぽ (2016-03-20 11:17)