前回まで、面会所の売店のオバちゃんが着服して、逃げ切ったお話をしました。
明るみに出ていない、持ち逃げしたお金もあるって言うのに、
何のおとがめもなし、とはお役所ってホント、身内に甘いよな。
そんな甘～い話の後には、
しょっぱい話、激辛な話はいかがでしょうか？
刑務所の身内の甘くてヌルい話なんか、聞いてられるか！
オレは他人の不幸やどん底の話が聞きたいんだ、という方のためにご用意しました。
懲役たちの、涙なしでは語れない？
本来面会は、懲役たちが一番喜ぶもののハズなんですが、
「楽しくない」面会もあるんです。
1．離婚届を書けって？
Kさんは30代のムキムキの肉体をした男らしいヤツ。
月2回、自慢の奥さんが面会に来てくれるのを楽しみにしています。
面会を終え、戻ってくると、我々に奥さんの自慢話をする、奥さん大好き人間。
毎回奥さんの自慢話を聞かされるのはうっとうしくて仕方がないのですが
まぁ、ココは刑務所、人間関係を円滑にするために、聴いてあげます。
ある日も
Kさん、面会を終え、戻ってきましたが、
元気がない。
担当の刑務官様と何やら話し込んでいます。
休憩時にKさんをつかまえて話を聞いてみると・・・
―――面会に来たんでしょ？奥さんと話したのに元気ないね？
「いや、ちょっと。自分、もうムリかもしれません」
―――はぁ？どうしたの？深刻な顔して。奥さんとケンカでもしたの？
「いや、それどころじゃないです・・・」
―――なに？奥さんにオトコでもできちゃった？
「いや、ホントにそうかもしれません・・・」
冗談を言ったつもりが、ひょっとして地雷を踏んじまったか？
一緒になって聴いていた懲役たちも、顔が引きつります。
―――どうしたの？深刻な問題かい？
「嫁さんが、面会に来て、急に『離婚してくれ』って言うんですよ」
―――ええっ？だって、あんなに仲良かったじゃないの？
「自分もそのつもりでした。前回来たときも変わった様子がなかったし」
―――離婚したい理由とか言わないの？
「もうムリ、お願いだから離婚届書いて、送って、
ってそれだけです」
―――何か思い当たる理由はないのかい？
「全然わからないっす。それだけ言って、さっさと出て行っちゃったんで」
奥さんからすれば、子どもも抱えて、生活も大変。
ダンナは逮捕され、刑務所にブチ込まれ、しばらく帰って来ない
将来も心配だ。奥さんは子供がいるとはいえ、まだ若く美しい。
と、なれば、こんな何重苦もわざわざ背負うことに耐えられない。
ダンナと一緒にいるメリットが見い出せない。
ましてや、親や友人に別れた方が良いと言われれば、そんな気になるだろう。
私がその立場だとして、もし別の条件の良い男が見つかったら・・・
そりゃあ、
よほどのこだわりがなければ、ダンナを乗り換えるだろう。
他人のことだと、冷静に判断できるものですよね。
しかし、本人は冷静にはなれないよな・・・
その晩、独居の舎房にてKさん、大暴れ！
「うおおおぉぉっっ！！」
どデカい雄叫びとともに、扉をガンガン叩く音が廊下中を響き渡った。
うるせえよ！と思ったが、ちょっとかわいそうにも思えた。
前回まで仲良かったのに、
面会に来ていきなり
「もうムリ、離婚して、以上」
で、
離婚届を置いていかれたら、パニックにもなるか。
その後、もちろんヨリが戻ることはなく、
離婚したKさん。
運が良かったのは、雄叫びして、扉を叩いたら、即懲罰なんだが、
事情をくみ取ってくれた刑務官が、
目をつぶってくれ、懲罰は免れた。
あんまり嬉しくないか？
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2．今さら責任のなすりつけあい？
面会に来てくれた人に、感謝感激、涙を流さんばかり、とは限らない。
Tさんは2人の子どもがいる自営業のおとっつあん。
久しぶりに
父親が面会に来たというのに・・・
「おい、オヤジ！どうしてオレの財産を勝手に処分した！」
―――おめぇ、ああするしかなかっただろ。
Tさんのオヤジさん、
逮捕後、自営業だからか慌てて、Tさんの財産を整理した。
勝手に実印を持ち出し、弁護士に相談して、電光石火の所業。
自宅を売り払い、自営の会社を義弟に譲り、資産はすべて現金化。
さらには、
奥さんに離婚を強く勧めて、離婚させ
奥さん、子どもに現金を渡してしまったらしい。
Tさん、財産どころか
家族も処分され、腹の虫がおさまらない。
「子どももどこにいるかわからねえじゃねえか？オカシイだろ？」
―――おめぇがいけねえんだ。むしろ感謝しろ。
「勝手に離婚の手続き勧めて、家族と連絡も取れないなんてふざけてる！」
―――向こうが会いたくねぇんじゃねえか？
「どうしてクルマだの売らなくていいモノまで処分するんだよ」
―――あってもジャマなだけだ。
「だからって、勝手に処分して、それを自分たちで分けるってオカシイだろ」
―――迷惑料だ。手続きしてやったんだぞ。
「ふざけるな！いくら親だからって、やっていいことと悪いことがあるだろ！」
―――おめぇに言われたくねぇ。
Tさん、こんな感じで
あとは罵倒のし合い
あんなアクリル板越しの狭い所で、
刑務官のオヤジも立会いしてるというのに・・・
Tさん、面会から戻ってきて、目を真っ赤にしてこの様子を語ってくれた。
「よく、立会いの刑務官に止められませんでしたねぇ」
「いや、落ち着けとか言われたけど、止められなかったよ。あきらめたんだよ」
大人になってから、親兄弟がいてくれるというのは
必ずしも、助けてくれるわけでも、幸せなことでもない。
逮捕された自分が悪いんだが、もうちょっとどうにかできないもんかねぇ。
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2015-06-06 15:00
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